豊下製菓の「なにわの伝統飴野菜」
=姿も味も旬の野菜そのまま=
色合いから姿かたちまで、きわめて精巧に再現された飴(あめ)細工はまるでフィギュアのようだ。しかし、本当にすごいのは、その味わいである。
明治5年創業の飴の老舗、豊下製菓(大阪市阿倍野区)社長の豊下正良さん(63)は、平成12年に開かれた「なにわ伝統野菜の第2回収穫祭」で「天王寺蕪 (かぶら)」を久しぶりに食べ、その深い滋味に改めて衝撃を受けた。と同時に「これなら飴にできる」と確信。天王寺蕪を入手してさっそく試作を始めた。
食品添加物による人体への影響が問題視され始めた昭和40年代後半、当時大学の農学部に在籍していた豊下さんは、昭和5年から販売している同社の「いちご 飴」などにそれまで使われてきた合成着色料を「できるだけ早く天然着色料に切り替えなければ」と思っていた。大学の研究室で、「イチゴの天然成分だけを使 い、飴に味と色をつけたい」と先生に相談すると、「そんなもんできるはずがない」と、言下に退けられた。その時の悔しさをバネにして、卒業から1年後には 天然着色料を使っての商品化に成功。以来、天然素材にこだわった飴作りを続けている。
平成14年には、「田辺大根」「勝間南瓜(こつまなんき ん)」「毛馬胡瓜(けまきゅうり)」など7種類の「なにわの伝統野菜」を使用し、オリジナル商品「なにわの伝統飴野菜」を発売。一部の伝統野菜は自家栽培 して最盛期に搾り、その汁で風味付けをしている。旬の野菜がまるごと飴になっているのだ。
例えば、「毛馬胡瓜飴」は表面のイボイボまで克明に再 現されていて、その舌触りもザラザラっとした胡瓜の皮そのもの。メロンのようでありながら少し異なる、鮮烈な野菜独特の青臭さが鼻に抜ける。同時にまるで 野菜のような甘味とほろ苦さが押し寄せ、思わず次の“野菜”に手が伸びてしまう。
現在9種類となったこの飴は今も一つ一つ手作り。豊下さんは言う。「一人でも多くの人に、なにわの伝統野菜に興味を持ってもらうのが願いです」(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
【もうひとこと】
大阪のおばちゃんたちがこの飴をバッグから自慢げに取り出す姿が目に浮かびます。
【住 所】大阪市阿倍野区美章園2の13の3
【電 話】06・6719・4458
【営 業】午前9時~午後5時(土・日・祝日休業)
【最寄り駅】JR阪和線・美章園駅