京都府菓子技能士会会長で、京都府現代の名工にも選ばれた和菓子店「二葉軒」(京都市南区東九条中御霊町)の店主、将野(はたの)義雄さんは昭和18年、同店の長男として生まれました。
大学進学を控えた春休み、菓子の原料店でアルバイト中、得意先の「若狭屋」で新入社員が来なくなり、代わりに手伝いに行くことに。店主の北川太三郎さん(故人)は京都工芸菓子の第一人者で、その技術を目の当たりにし、大学に進学せずお菓子の世界にのめりこんでいったそうです。10年以上の修行の後、今度はおもち店へ手伝いに…。
戦争で行方不明なった父親に代わり菓子店を続けていた母親の仕組まれた後継者教育だったのでしょう。家業を継ぐころには「材料を見極める目」「最高峰の技術」「幅広い菓子のレパートリー」がしっかりと身に付いていました。
二葉軒のあんは手で選(よ)り分けられた丹波小豆しか使われていません。小豆を収穫するとき、外側の実(天葉)と内側の実(中葉)では色や大きさが違います。これを一緒にしてしまうと煮えが違います。小豆を手選りしたものを生産者から直接買い取り、採れた分、選別した分をそのままの状態で袋に入れて保管し、個別に煮るそうです。
将野さんは、京都府菓子技術専門校や消費者向け講習会の講師も務めています。作る側と食べる側の感覚の違いや、歴史や伝統と無縁の若者の流儀や発想に驚かされ、勉強になるそうです。
「桜もち」のもち米で作られた道明寺のふんわりとした柔らかさと、やさしいあんの甘味、桜の葉に残るほんのわずかな塩味…。これ以上何も引くことのできないぎりぎりの緊張感に京菓子の伝統の一端を垣間見た気がしました。(関西スイーツ代表/三坂美代子)
写真:後継者の長男、雅史さん(右)と将野さん
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