エイルの「りんごとくるみパイ」
脇役で引き立つ主役の実力
「うちにいた子が店を出したので頼む」と、ユーハイム(神戸市中央区)の元工場長でドイツのマイスター(職人に与えられる称号)を取得していた安藤明さん(故人)に紹介されたのが新森里志さん(44)の店、エイルだ。新森さんはユーハイム時代、安藤氏と寝食を共にしながらフランスの一流洋菓子店で働いた経験を持つ。
オープンキッチンの奥から現れた新森さんは安藤氏によく似ている。柔らかい物腰、丸っこい体つきと風貌が、菓子職人の空気を感じさせる。
新森さんはユーハイムを退職後、いくつかのパティスリーで経験を重ね、平成22年に自店を持った。東灘区の甲南山手といえば、スイーツ激戦区として有名だが、あえて厳しい条件下で出店したのには訳がある。
「パリでの修業時代、『いつか自分の店を』と思いました。多くの洋菓子店が軒を連ねる『本場』には、グレードの高い店が集まっていました。店を持つならそういう場所に、とこの地区を選びました」と語る。洋菓子文化がしっかり根差し、大きな購買力がある神戸、とりわけこの地区はお菓子職人にとっても憧れの地といえる。
「りんごとくるみパイ」はかわいいフリルのついたパイのカップにリンゴとナッツがトッピングされている。どうしても見た目が地味になりがちな焼き菓子だが、華のあるビジュアルに仕上がり、幅広い年代の人に受け入れられている。10年ほど前に新森さんが開発したオリジナル商品で、「アーモンドの生地をおいしく食べていただきたくて、リンゴとクルミの組み合わせを思いつきました」と語る。
フカッと焼き上がった生地からアーモンドの香りが立ち上る。ジュッと広がるリンゴの果汁からあふれ出る酸味を、甘さ控えめの生地がふわりと受け止める。クルミのカリッとした食感やアーモンドのパリパリとした歯ざわりに出合うたび、生地の香りを増幅させる。このスイーツの主役はアーモンドの生地。リンゴやクルミは、それを最大限に引き出すために新森さんが選んだ脇役なのである。
ゆっくりと口中で溶ける生地に優しいリンゴのミツの味が浸透していく。シロップ煮の甘味がクルミやアーモンドスライスにほんの少しの味付けをし、ハーモニーを奏でるかのように共鳴する。ナッツ独特の芳香に誰もが心満たされるお菓子だ。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「りんごとくるみパイ」1個210円、6個入り1470円
【もうひとこと】カスタードクリームが入った焼きたて「秋のりんごパイ」もおすすめです。
エイル
【住 所】神戸市東灘区森南町1の6の11の103
【電 話】078・862・3963
【営 業】午前10時~午後8時(不定休)
【最寄り駅】JR甲南山手駅