五感の「こぶしゃり」
北船場の活力伝える新境地
大阪・北船場の有名洋菓子店「五感」は、大正11年に建てられた歴史的建築物・新井ビル(旧報徳銀行大阪支店)を本館にしている。重厚な石とレンガ造りの外観からは想像もつかないが、足を踏み入れると、オープンキッチンから漂う焼きたてのお菓子の甘く香ばしいにおいに満ちている。
社長の浅田美明さん(53)は米蔵屋敷が建ち並んだこの地で洋菓子店を構えるにあたり、「米」を大切にした商品コンセプトを打ち出し、「お米の純生ルーロ」をはじめ数々のヒット商品を生み出した。「この街の活力をいつまでも残したい。そのためには大阪船場土産を作りたい…」。かねての思いが、塩昆布の老舗「神宗」の社長、尾嵜彰廣さん(63)との会話の中から具現化した。大阪名物の塩昆布を使った新しいお菓子をつくることになったのだ。
「五感」は多くのお菓子の素材に米を使用している。塩昆布をあったかご飯でいただくイメージのお菓子なら、日本人の郷愁に訴えるお土産ができる、と浅田さんは考えた。
生地は小麦粉と焦がしバターに卵、砂糖といたってシンプルだが、これに塩昆布の煮汁を加える。トッピングする米はふっくらと蒸し上げ、ポン菓子では食感に頼りなさを感じるため、乾燥させてさらに煎って香ばしさを加えた。仕上げには細切りにした昆布を幾筋か飾り、昆布の存在感を見た目にも感じ取りやすいよう演出した。
「洋菓子に昆布。前例のない組み合わせに随分悩みました」と浅田さん。大阪の飲料水が軟水であるため、昆布の産地とは地勢的に遠いのに、大阪でだしといえば昆布が歴史的に重用されてきた。
このなじみ深いうまみを最大限に発揮すべく、ぜんざいに添える塩昆布のように、甘さをまろやかにし、バターの香りを引き出す塩加減を絶妙に調整し、洋菓子としてギリギリの体を保つ。
コシヒカリの米粒がしっかり、ポリポリッとした食感で面白い。トッピングされた昆布のしわっとした歯ざわりがアクセントに。これはチュイール(洋風煎餅)なのか、しょうゆ煎餅なのかと潜思する。シャリシャリと軽やかな生地に練り込まれた金ゴマが味と香りと食感に趣を加える。新しくて懐かしい大阪船場の味は、日本の米文化を再認識させるお菓子として完成した。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「こぶしゃり」8枚入り525円、16枚入り1050円、24枚入り1575円
【もうひとこと】17日より新大阪駅にて先行発売されました。
新大阪駅ギフトステーション
【住 所】大阪市淀川区西中島5の16の1JR新大阪駅新幹線改札内
【電 話】06・6302・5718
【営 業】午前6時半~午後9時半(無休)
【最寄り駅】JR新大阪駅