【産経新聞社】関西甘味(スイーツ)図鑑(2014.4.12朝刊)

「天神餅」1個115円、6個入り810円

「天神餅」1個115円、6個入り810円

天神餅の「天神餅」

時代の嗜好を映す匙加減

泡雪のような口解けの餅の中にこっくりと風味豊かに炊き上げられた粒餡(あん)が入った天神餅の「天神餅」。卵白を加えて練り上げるふんわりした雪平餅は、片山真さん(36)が時代に合わせて少しずつ改良を重ねている。

天神餅は昭和27年、片山さんの祖母が創業した。店名の由来は近くの菅原神社の“天神さん”だ。梅鉢のご紋にあやかり、パッケージにも梅の花が描かれている。

片山さんは幼少期から和菓子に親しみを覚え、いつしか家業を継ぐ意志を固めていた。選んだ修業先は和菓子と洋菓子の両方を扱う店。修業先から自店に戻り10年余り、伝統を守りながらも和菓子に合う洋の素材や技法を柔軟に取り入れ、店に新鮮な風を送り込んでいる。

「堺は古くから茶道が盛んで歴史ある和菓子屋さんがたくさんあります。そんな中で特徴を出すために、洋のテイストを取り入れ、素材や甘さ、柔らかさやサイズなど、現代人の口に合うように徐々に変えていきました」と語る。

餅の生地に使用するのは滋賀県産の羽二重餅粉。コシがありながらきめ細かく、なめらかな舌触りに仕上がる。中の餡には風味と香りが高い北海道十勝産の大粒小豆を使用している。口へ運ぶと、やわらかいお餅に水分をたっぷり含んだみずみずしい粒餡が、まるで吸い込まれるように一体化する。あっさりした小豆の粒には、香ばしい土っぽい香りがしっかりと残っている。誰しも郷愁を覚える、あの香りだ。

「『天神餅』はほんの少し甘さを調整し、ほんの少し(約5グラム)生地を大きくしました。そうすることによって生地と餡のバランスがよくなりました」

生チョコの入った大福「生チョコもち」、冷蔵庫で冷やしていただく「ひやっこみたらし」など、新感覚の和菓子が次々に誕生し人気商品となっている。菓子づくりの新境地を開く片山さんの攻めの姿勢が息吹となって、店はいつも隅々まで活気にあふれているのだ。

多くの和菓子店が集まる堺。和菓子店巡りは観光客の楽しみの一つとなっている。

時代が変わってもこの町の和菓子人気を支えているのは、さりげなくその時代の人の嗜好(しこう)をお菓子に反映させる、職人たちの巧みな匙(さじ)加減の蓄積なのである。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
<もうひとこと>
これからの季節は、ヒンヤリとしたみたらしが心地よい「ひやっこみたらし」が人気です。

天神餅
【住  所】堺市堺区車之町東3の1の1
【電  話】072・233・0987
【営  業】午前9時~午後7時半(日祝は午後7時まで、月曜定休)
【最寄り駅】阪堺電軌阪堺線花田口電停

産経関西 スイーツ物語 2014.4.14 1:00