あん庵の「想いいろいろ ハート最中」
素材の餡が10種、女性客狙い撃ち
ほとんどの女性が大好きなハートの形、おちょぼ口で食べられる小さめのサイズ、そして、食べたことのないような多彩な色と味…。「最中(もなか)」を食べない若い女性に「必死のパッチ」(関西弁で「一生懸命」の最上級の言葉)でアプローチを仕掛けたのは、あん庵(大阪府羽曳野市)の主人、松田明さん(44)だ。
大学を卒業し、普通の会社員を経験した後、和菓子店に勤務しながら夜間の製菓学校に通い、技術を習得した。32歳で独立したが、店は大通りに面していないため目につきにくく、わざわざに足を運んでもらわなければならない所を選んだ。「偶然的な集客で売り上げを得ても、努力しないだろう」と自分を追い込んだ。「この場所でお客がつけば、やっていける!」と信じたのだ。
しかし、簡単に売れるようにはならなかった。昔ながらの製法、材料で作られた餅は、時間がたつと当たり前のことだが、かたくなる。これがクレームになったこともあった。それでも、松田さんは自分を信じて作り続けた。ある日、電話を取ると、女性客から「黄身しぐれを買ったのだけど…」。「あぁ…また苦情だ」と身構えると、「おいしかったわ、ありがとう」。
だんだんと理解者が増え、それが自信につながった。テレビの対決番組にチャレンジすると、熟練の職人さんたちをさし置き、優勝することになった。
「絶対に優勝しようと思って臨みました」と松田さん。問い合わせの電話は鳴りやまず、店頭には客が押し寄せたが、慌てなかった。丁寧な接客と、今まで同様に手を抜かないお菓子作りを続けるようにスタッフにも自分自身にも言い聞かせた。その結果、一時の波は収束したが、リピーターが固定客となり、店のベースアップにつながった。
ハート最中は、大阪市内のショッピングセンター内に出店した際、目玉商品として開発したものだ。若い女性客の目を引くための戦略は成功し、店の売り上げの半分を占めるほどだった。会社員の経験があればこそのマーケティング手法だ。
もち米100%の香ばしい最中の皮に、つぶ餡(あん)、ゆずレモン、トマト、いちごミルク、いちじくと、和菓子とは思えない素材の餡が10種類も並ぶ。
「毎日トマトジュースを飲むぐらい、トマトが大好きだから」という理由でできたのがトマト餡。和菓子特有の幾重にも押し寄せる甘い甘い波が、トマトの酸味でうまく緩和され、サッパリとした切れの良い甘味になる。
「ぬちまーす」は、こし餡を沖縄の海塩で仕上げた。ミネラルが豊富で、まろやかな塩が舌をささず、上品で深い味わいだ。一口目で味と香り、食感が一度に楽しめる。押し寄せる洋風の繊細なテイストを、上質の餡と最中の皮が「余裕のよっちゃん」(関西弁で「非常に余裕がある」)で受け止める。
「『大阪に福を呼ぶ大福』キャンペーン」「和菓子甲子園」などのキーワードで検索してみてください! 和菓子から目が離せませんね。
和菓子工房 あん庵 羽曳が丘店
【住 所】大阪府羽曳野市羽曳が丘西1の4の53
【電 話】(電)072・950・1122
【営 業】午前9時~午後6時(年中無休)
【最寄り駅】近鉄南大阪線藤井寺駅
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
2014.6.14