探究心が生む魔力
「仕込みの段階ではほとんど生地がなくて、フルーツばっかりなんです」。バタフライエフェクト(神戸市垂水区)のオーナーシェフ、砂崎康弘さん(34)は語る。
ドライフルーツがたっぷり入ったパウンドケーキは、ともすれば敬遠されがちな焼き菓子のひとつだ。
だが、一度とりこになると、もう生クリームのケーキには目もくれなくなるほど魔力がある。
ジュワッと広がる果汁の充足感は、まるでフルーツタルトのようだ。極限まで切り詰められた生地にたっぷりと含まれるラム酒の水分が、フルーツカクテルのように香り高く口中を満たす。
レーズン、イチジク、プラム、オレンジ、メロン、チェリー、レモン、アプリコット…。フランスやイタリア産のフルーツを現地でコンフィ(シロップ漬け)にしたものを輸入し、使用している。
これらのフルーツを、それぞれの個性にあわせてカットしたり、加工を施したりして、ラム酒に1年間つけ、オリジナルミックスフルーツ漬けが完成する。
フルーツがたっぷり入った生地は火が通りにくい。そのためじっくり時間をかけて焼き上げた後、フランスラム酒の最高峰、ディロンラムをかけ、ラップをして、その香りを閉じ込める。冷める時に生地に味が入るので、自然に冷ます。
ラム酒の芳醇な香りがフルーツを包み込む。ジューシーな食感と、幾重にも重なるフルーツの酸や香味が、溶け合い高め合う。
生ケーキの瞬間のおいしさとは対局の、熟成された旨みが、まるでさざ波のようにおいしさを何度も何度も繰り返し、塗り替えていく。
砂崎さんは東西の名店と言われる店で修業経験を持ち、さらに海外での勤務経験も豊富なパティシエ。技巧派、感性派と全く異なるタイプの師匠の下で最終的に習得したのは、鋭利なバランス感覚だった。
「バタフライエフェクト」は、オープンしてまだ2年半。地元でも、ようやく知名度が上がってきたばかりの新しい店だ。
しかし、マニアックとも言える商品構成や、一切の妥協を排除した取り組みから、すでに知る人ぞ知る注目店となっている。
砂崎さんの探求心は、とどまるところを知らない。生ケーキの仕上げに使う、艶出しのジャムから、焼き菓子の生地に使われるアーモンドプードル(アーモンドを粉にしたもの)まで、自作してしまうのだ!
しかし、店にはマニアックなファンばかりが来るわけではない。「普通のお客さんに、よくわからなくても、ただおいしい…と思ってもらえたら、それが嬉しい」と砂崎さん。
一日を美味しく締めくくるスイーツとして、ゆったりとした気持ちで味わって頂きたい。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
《もうひとこと》オープンして8カ月間、店頭に並ぶことがなかった「ケック オ フリュイ」。その理由は、漬け込むのに1年を要するため、開店に間に合わなかったから。その間はプライスカードだけが置かれていたそうです。
バタフライエフェクト
【住 所】神戸市垂水区本多聞2の10の23 田中マンション105
【電 話】078・781・7890
【営 業】午前11時~午後7時半(水曜定休、月により変動休日あり)
【最寄り駅】JR山陽線舞子駅
2014.7.20