菓子処 ふる里の「チーズモンブラン大福」
心遣いが生む絶妙のバランス
「平成20年に開催されたデンマーク産クリームチーズを使った和洋菓子のコンテストで、決勝に進出した10作品のうち、和菓子は1作品だけでした。周囲は選手も審査員もすべて洋菓子の方ばかり。まるでアウェー(敵地)の試合に臨むようでした」と「菓子処 ふる里」の出口勝正さん(42)は振り返る。
書類審査の段階から注目され、実技テストではひっきりなしに審査員が見に来るほどだった。結果は、全国から選ばれた洋菓子職人を相手に見事、入賞した。
「審査員の先生方が、優勝できなかった理由や改良点について、親身になってアドバイスしてくださいました」。改良の末、「チーズモンブラン大福」が完成し、さらに数年後には、別のお菓子で念願の優勝を果たした。
出口さんは和菓子店に生まれ、小学生の頃から和菓子作りの手伝いをし、後継者になるつもりでいた。しかし、父親に大学を卒業して会社員になることを勧められ、30歳まで会社勤めをした。
会社が経営不振に陥ると、自ら退職。父親のもとで一から和菓子の修業を始めた。学ぶこと3年半。腕試しで挑戦したコンテストで、いきなり技術優秀賞を受賞した。
「30歳を超えて職人を目指した人など周りにおらず、自分の実力がどの程度か試したかった」。この受賞が自信となり、さまざまなコンテストに挑戦。テレビのチャンピオンシップ番組にも出演し、和菓子部門で2位となった。
チーズモンブラン大福は、白あんに洋栗とクリームチーズを合わせたあんを大福生地で包んでいる。モンブランの雪に見立てて飾っているのは、馬毛通しを施したマロンチーズあん。その上に和栗の渋皮煮をのせている。デンマーク産のクリームチーズは塩分控えめで、白あんと合わせる時に熱を入れなくても、きれいに混ざるのが特徴。これで滑らかな口どけが保たれ、ほど良い塩気であんの甘味がまろやかになる。
白あんとチーズが一体化し、ホワイトチョコレートにも似た斬新な味が楽しめる。濃厚な栗の風味とミルクや豆の風味を、ふんわりやわらかい大福生地が優しく包む。それが溶け合い、栗の香りの余韻を残してスッと消える。渋皮煮のシロップが、甘さを控えたあんや生地に浸透し、舌の上で絶妙にバランスがとれた状態となる。出口さんの心遣いが一緒に染み出ているような気がする。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
《もうひとこと》普通の大福よりかなり多めに作っても、すぐに売り切れてしまうそうです。
菓子処 ふる里
【住 所】大阪府泉大津市二田町1の13の8
【電 話】0725・21・6086
【営 業】平日は午前9時半~午後7時、土・日曜と祝日は午前9時半~午後6時(水曜定休)
【最寄り駅】南海本線松ノ浜駅
2014.9.14