「楠樹菓庵 栄久堂吉宗」の
「畷御殿」
迫力の裏に繊細な苦労
小楠公(しょうなんこう)と呼ばれ親しまれる楠木正行(くすのき・まさつら)を祭る四條畷神社の参道に本店を構える「楠樹菓庵 栄久堂吉宗」。ご主人の横井冨美男さん(77)は福井県の和菓子屋に生まれた。20歳で大阪市西淀川区の栄久堂吉宗に菓子修業に入り、8年後に独立した。
店名に冠したのは、公の墓所に植えられた樹齢500年余のクスノキの銘木。この雄大な樹に横井さんは心を惹かれ、店の成長を投影した。
「畷御殿」は昭和40年に誕生した店の看板商品。楠木家の家紋・菊水の菊をかたどった直径12センチの特注の型で作られた大きな焼きまんじゅうだ。「小楠公さんの名前にふさわしい迫力と、一度食べたら忘れられない味を目指しました。大きくても1個食べられるように、甘さを控えて、卵の黄身の風味をしっかり出しました」と横井さん。
北海道手芒の白餡(てぼあん)に卵黄、砂糖を入れた黄身餡に別炊きをした北海道小豆の粒餡を入れ、小麦粉、卵などを合わせて、一晩寝かせた生地で包んで焼き上げる。焼く前にみりんを多めに塗り、しっとりと仕上げるのがポイントだ。みりんが生地に浸透し、柔らかく焼きあがる。
「焼きまんじゅうは皮と餡が密着しないと、おいしいものができません」
やわらかい生地に包まれた黄身餡がとろりと口の中で溶けると、優しい卵の香りが広がる。中の粒餡は少し甘めな仕上げで、味と食感のアクセントになっている。
店の餡は、横井さんが平成16年から製餡担当副理事長を務める大阪府生菓子協同組合で製餡している。府内約400軒の和菓子店が加入し、その半数がこの餡を使用している。この事業を現在展開しているのは、全国でも大阪だけだ。
良質の素材を共同購入し、最高の技術者が毎日、小豆を炊いて各店へ届ける。合理的な大阪商人らしい発想だが、変動する小豆の価格や不作時の材料確保など、運営には並々ならぬ苦労がある。
「味よし、風味よし、どこよりも良い生餡を作っています」と自信たっぷりの横井さん。
小楠公は、溺れる敵兵に手当てをして送り返し、その恩義から味方を増やしたと伝えられている。長年の苦労は善因善果となり、「畷御殿」は大阪銘菓として府の大阪産(もん)名品にも選ばれている。
(文と写真 「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
<もうひとこと>
餡に関するお問い合わせは大阪府生菓子協同組合((電)06・6693・3121)。
小売りはできないそうです。
楠樹菓庵 栄久堂吉宗
【住 所】 大阪府四條畷市楠公1の12の20
【電 話】 072・879・0003
【営 業】 午前9時~午後8時(月2回の水曜=不定休)
【最寄り駅】 JR四条畷駅
msn産経ニュース 2014.10.11 08:00
産経関西 スイーツ物語 2014.10.11 08:08
2014.10.13