ア・テールの「クロッカン」
引き算の美意識が生む食感と味
厚さ1ミリ、直径12センチ、重さ15グラムの「クロッカン」。
「年配の方には『薄焼きの洋風せんべい』と説明しています」と語るのは、大阪府池田市のパティスリー「ア テール」のオーナーシェフ、新井和碩(かずひろ)さん(37)だ。
バニラシュガーと小麦粉を一緒にふるい、卵白でまとめて生地を作り、少し休ませる。生地を手でちぎりながら鉄板に並べ、少し水をつけて押さえ、ヘーゼルナッツをのせてオーブンで10分程度焼く。
何とも簡単な作り方だが、ひとたび口にすると、素材そのものの味がストレートに飛び込んできて、感動を覚える。
クリスタルのように繊細かつ強靱(きょうじん)な張り具合に薄焼きされた生地は、まるでヘーゼルナッツを包む包装紙のようだ。クレーターのような不均一の卵白の層が透けて見え、手作りであることを証明する。
デパートの地下でパティシエがケーキを仕上げる姿に憧れ、高校卒業後、製菓学校に進学。いったんホテルに就職したが、「将来は独立したい」と考えていた。独立系の洋菓子店で修業を積み、平成23年11月、自分の店を構えた。
指先の技術のみでなく、本を見たり、名店を食べ歩いたりして試作や研究を繰り返し、自分のスタイルを確立した。
「あまり器用な方ではないので…」と謙遜するが、ショーケースの中では、きれいに仕上がったフランス菓子が輝きを放つ。そこには定番のショートケーキやロールケーキはない。
クロッカンは、京都で修業した店のオリジナルだ。「ココナッツやアーモンドなど、いろいろなナッツで試しましたが、皮つきのヘーゼルナッツを軽くローストすると、ピタッときました」と新井さん。買いやすく、食べやすいと人気の商品になった。
パリンッと指先に力を入れると粉々になる。ガリガリッとかむと、どこか懐かしいべっこう飴のような香ばしさが広がるが、ヘーゼルナッツに到達した瞬間、一変する。ローストして鮮明な香りを放つナッツとパリパリ生地の競演は、どこにもない食感だ。
「足し算よりも、引き算。複雑な構成よりも、そぎ落としてシンプルにすることで、味を良くしたい」と話す新井さん。
このお菓子の見かけの素朴さからは想像もつかない、シェフの美意識が伝わってくる。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
《もうひとこと》煎茶や抹茶などにもよく合います。甘いものが苦手な方は、ぜひスモーキーなウイスキーでお試しください。
ア テール
【住 所】大阪府池田市上池田2の4の11
【電 話】072・748・1010
【営 業】午前10時~午後7時(水曜定休)
【最寄り駅】阪急宝塚線池田駅
msn産経ニュース 2014.11.1
産経関西 スイーツ物語 2014.11.1
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