【産経新聞社】大阪甘味(スイーツ)図鑑(2012.5.19朝刊)

御菓子司・丸市菓子舗の「斗々屋茶碗」

直径16センチ 圧倒的な存在感

昨今は商標や特許などをめぐって争われるケースが少なくないが、堺の老舗、丸市菓子舗の「斗々屋茶碗(ととやちゃわん)」に限ってはその心配が不要かもしれない。

 回船問屋を営んでいたという初代の店主は、いわゆる「旦那衆」だった。茶をたしなみ、書画骨董(こっとう)収集を趣味としていた。ある日、千利休が愛用したと伝えられる「斗々屋茶碗」を手に入れた。これを菓子に仕立て、茶の席に出せば「粋」だと考え、菓子作りを始めた。

 本物の「斗々屋茶碗」から型を作り、それを伏せた形の饅頭(まんじゅう)に仕上げた。直径16センチの圧倒的な存在感は、当時の人はおろか多様な菓子に慣れているはずの現代人でさえ度肝を抜かれる。
「材料は基本的には通常の焼き饅頭と変わらないが、焼き方に秘密がある」と語るのは5代目店主の野間耕三さん(55)。「皮の香りや、生地に包まれた餡(あん)の風味を保ちつつ、いかに上品な口当たりに焼き上げるかがポイントです」

中心部分の粒餡は、丹波大納言を2日間煮続けて作る。粒がつぶれないよう丁寧に手作業で炊いている。その周りは、柚子(ゆず)餡。香りのよい旬に柚子の皮だけをおろし、砂糖と合わせジャム状にして数カ月間寝かせる。そして白餡を炊く際、よくなじんだジャム状の柚子を最後に加えて仕上げている。すがすがしい香りが、大納言をより風味豊かに、すっきりとした甘さに仕上げている。

 幼少の頃から父の作る菓子が大好きで、自然にこの道に入った。他店で修業をすれば“ハク”も付くが、少しでも早く、代々受け継がれてきた自店の味と技を自分の手と舌に刻み込もうと、実家で父やその弟子に学んだ。44歳の若さで「なにわの名工」(府優秀技能者表彰)を受賞し、努力が実を結んだ形となった。その後、府生菓子協同組合の常務理事を務めるなど業界の発展にも一役買っている。

 また、地元のPTAが開催する小中学生のお茶とお菓子の教室にも協力。本物に触れてほしいという野間さんの思いは、「斗々屋茶碗」を大切に受け継いできた丸市菓子舗にはぐくまれたDNAゆえかもしれない。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)

【もうひとこと】
 「斗々屋茶碗」、皮の端のほうは一段とよく焼けていて、カリカリッともうひと味違う食感が楽しめます。

【住  所】堺市堺区市之町東1丁2の26
【電  話】072・233・0101
【営  業】午前9時~午後6時(無休)
【最寄り駅】南海本線堺駅
産経関西 スイーツ物語 2012.5.20
msn産経ニュース 2012.5.26.14:00