長崎堂の「カステララスク」
長崎堂は、大正8年創 業の老舗カステラ店。長崎で生まれた昔ながらの深く濃い味わいのカステラの味を今も守り続けている。しかし、「軽さ」を求める昨今の需要に応えるため、従 来のカステラの味はそのままに、食感のみを軽くした商品を開発した。そんな「カステララスク」は長﨑堂に根ざした「始末」の精神から生まれたヒット商品 だ。
もともとは「もったいないから」とカステラの切れ端をラスクにしていたが、売れ行きの伸びとともに、切れ端だけでは材料が足りなくなった。今ではラスクのためのカステラを焼いているそうだ。
カステララスクを考案した荒木貴史社長(55)は「それなりの覚悟を決めて始めた」と振り返る。ラスク用の専用オーブンなど、カステラ製造の機械とは全く違う新たな環境を整えて商品化に臨んだ。 荒木さんは大学でデ ザインを学び、同級生だった相談役の長女、志華乃さんと学生結婚。自らの進むべき道を固めた2人は、卒業制作として自社のパッケージデザインを共同で手が け、のちに新ブランド「黒船」を立ち上げるという重責を担うこととなった。従来の「カステラ屋さん」とは一線を画すあか抜けた「黒船」の店舗やパッケージ はデパートの売り場でひときわ目立つ存在となり、たちまち人気ブランドとなった。
ほろりとほとびる口 当たりは新鮮な食感だ。スティック状の形も食べやすく、サクサクとリズミカルに口の中へ入り、一瞬にして弾けるように広がっていく。カステラの上品な卵の コクが、思いもよらない食感とともに広がり、そして消えゆくさまはまるで線香花火のよう。ふんわりとしたカステラの食感も鮮明によみがえり、今度はカステ ラが食べたくなる。
「カステララスクを食べてカステラの味を知る人もいらっしゃるようです」と荒木さん。若い世代をターゲットとしたカステララスクのマーケティング戦略はカステラ自体の需要拡大という相乗効果をもたらした。
パッケージの小缶が 魅力的だ。いずれ一家に一つは必ずある定番の小物入れのような存在になるかもしれない。しかし、どんなに斬新なアイデアが商品やパッケージに盛り込まれて も、カステラという菓子の範疇(はんちゅう)を外れることは決してない。長崎堂はカステラのブランドなのだから。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
【もうひとこと】
割れてロスになっていたカステララスクを材料に、新しいチョコレート菓子が誕生したとか。これぞ究極の「始末」ですね。
【住 所】大阪市中央区心斎橋筋2の1の29
【電 話】06・6211・0551
【営 業】午前10時~午後7時(水曜定休)
【最寄り駅】大阪市営地下鉄心斎橋駅