アミ・デ・クールの「プティパケ ショコラ」
「子供がポケットのお 小遣いで買えるように…と名づけたお菓子『プティパケ ショコラ』には一生忘れられない思い出がある」と語るのは、オーナーパティシエの鳥居俊宏さん (50)。このお菓子は他ならぬ鳥居さん夫妻の結婚披露宴の引き出物なのだ。披露宴の出席者は、鳥居さんが在職していたホテルの料理や製菓の関係者が中 心。諸先輩に持ち帰ってもらうお菓子にふさわしく、最も自信のあるものを用意した。その結果…、披露宴が終わった夜に先輩から電話が入った。「おいしかっ たのでレシピを教えろ!」。仕方なく電話口でレシピを説明することに…。
鳥居さんがパティシエを志したのは、フランスの一つ星レストランで料理の修業中のことだ。ディナーの注文客から「デザートをチョコミントソース味で食べた い」と要望があった。店のパティシエは帰ってしまったあと。懇願するホール係に根負けし、間借りしていた店のすぐ上の部屋に飛び込むと、荷物を引っかき回 し、調理師学校時代の教科書を引っ張り出した。その中から似たようなレシピを見つけてすぐ調理にかかり、何とかデザートを仕上げることができた。
しばらくして客に呼ばれ、ドキドキしながら席に行くと、「あなたのおかげで楽しみにしていたディナーの最後を、希望通りのデザートで締めくくれた」と感謝の言葉をもらった。その時の満足感が忘れられず、帰国後は迷わず洋菓子店へ就職した。 独立して10年がたち、お菓子の流行も変化していった。ロールケーキやシフォンケーキといった軽くて柔らかいスイーツがショーケースを占領していく中で、“砦(とりで)”を死守し続けているのが「プティパケ」シリーズだ。
「バタークリームのケーキは『古くさい』と敬遠された時代もありました。でも、材料が飛躍的に良くなった昨今はそのおいしさが見直されてきたように思います」と鳥居さん。
4層のスポンジの生地はココア風味。チョコレートはベルギー産の最高級品を使っている。生地を4層にすることは手間がかかるが、その分心地よい食感を生む。生地がしっかりとした歯応えのヨーロッパ伝統菓子にも通じる、噛(か)めば噛むほど味のあるケーキだ。最高級のチョコレートとバターは、常温に戻すことでまろやかに溶け出し、クリーム状となる。
濃厚なチョコレートと軽やかなココア風味の生地。これらが織りなす濃淡のコントラストがなんとも絶妙な逸品だ。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
【もうひとこと】
食べ急ぐのは“ご法度”。深煎りのコーヒーや洋酒に合わせ、ゆっくり、ゆっくり時間をかけて生地を味わってください。
【住 所】大阪市港区弁天2の1の8の110
【電 話】06・6574・0866
【営 業】午前10時~午後8時
(7~9月は午後7時まで、水曜定休)
【最寄り駅】大阪市営地下鉄弁天町駅