ヴィベールの「アニマルクッキー」
まるでお母さんの手作りのようなクッキーだが、これを店の中心に据えるのにはワケがある。表情豊かな動物たちの「型」は、市販品ではなく、手作りのオリジナルだ。
型は、大阪市中央区の心斎橋筋商店街にあった老舗カフェ「プランタン」から譲り受けたもの。平成15年に惜しまれつつ閉店したこのカフェは、ガラ ス越しに並ぶ「動物パン」で有名だった。この店の職人が、ヴィベールのオーナーシェフ、佐藤晃さん(60)の友人で、職場にあった金属製の空き缶を巧みに 曲げて型を作ってくれた。
パンダ、クマ、リス、カンガルー…。動物の形をしたクッキーは世界中にあまたあれど、このフォルムは完全オリジナル。生地が切れやすいよう先端部は薄く、押さえる手が痛くないよう後ろの部分は肉厚になっているなど、職人ならではの配慮が施されている。
ヴィベールは昭和59年の創業。大の子供好きという佐藤さんは「最初の10年間ぐらいは若い女性客がターゲットの洋菓子中心の店だったが、わが子の成長とともに、子供連れのお客さんに喜んでもらえるようなお菓子を作りたいと思うようになっていった」と語る。
2人の子供たちが成長して家を出ると寂しさからか、店のあるビルに入居しているバレエ教室や学習塾に通う子供たちに目が向くようになった。「よし、この子たちを思いっきりお菓子で喜ばせてやろう!」と思い立ち、始めたのがこの「アニマルクッキー」だ。
もともとは、クリスマスや誕生会の土産としてオーダーが入ると焼いていた。その後、子供たちの評判が親にも広がり、いつしかオーダーメードの人気商品となっていた。これを定番にし、店の外からも見えるところに陳列したのである。
愛くるしい表情はプランタンの動物パンそのもの。しかし、目や口元の配置でその印象はずいぶん変わる。「かわいらしく仕上げて、子供たちの笑顔が 見たい」と願う職人の気持ちが菓子の出来栄えに大きく影響するという。「かわいくて食べるのがもったいない…」と言われることも多いそうだ。
子供が好む淡いミルク味になるよう、配合にもこだわる。上質のバターとミルクをたっぷり使用しているが、生地が濃厚になり過ぎないよう配慮も。食感は硬すぎず軟らかすぎず、サクサク噛(か)んでもボロボロにならない程度の絶妙のほどけ具合に焼き上げている。
「これを食べて育った子が結婚して、その子供を連れて買いに来てくれてねぇ…」と佐藤さんの笑みがこぼれる。このお菓子が店の看板商品たるゆえんだ。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
【もうひとこと】
一番人気は「うさぎ」とのことですが、「コアラ」「カンガルー」の方が断然大きくてお得!?
【住 所】堺市堺区東雲西町1の2の2
【電 話】072・227・0015
【営 業】午前9時~午後9時(年中無休)
【最寄り駅】JR阪和線堺市駅