【産経新聞社】大阪甘味(スイーツ)図鑑(2012.9.8朝刊)

シェラトン都ホテル大阪の「イチジクのケーキ」

「切り落とし」に命吹き込む

シェラトン都ホテル大阪のシェフパティシエ、小川徹朗さん(64)は、黄綬褒章を受 章したり「現代の名工」に輝いたりするなど、数々の名誉を手中に収めた洋菓子界の重鎮だ。ホテルの中にあるカフェ&グルメショップ「カフェベル」は、小川 さんの生み出す珠玉のスイーツがイートインやテークアウトで手軽に楽しめる店だ。 昨年から同店で販売を始めたのが「イチジクのケーキ」。外側は緑色で見かけは本物のイチジクそっくり。明るい色彩がショーケースの中でひと際目立ち、ホテルのケーキらしからぬお手頃な値段も手伝って人気を集めている。

スポンジ生地は、デコレーションケーキなどとしてきれいな装飾が施され、「ハレの舞台」へと送り出されるが、使われるのは中央部分だけで、どうしても端材 ができる。「切り落とし」である。廃棄されることが多いこの切り落とし部分をまったく別のお菓子へと蘇らせ、これもまたハレの舞台へと送り出すのである。
こうしたケーキは、フランスではよくある再利用の手法。カフェベルのイチジクのケーキは、生地の切り落としにラズベリージャムとお酒(リキュール)とシロップで戻した乾燥イチジクを混ぜ合わせて成型し、チョコレートでコーティングしたものだ。

菓子職人の技術向上のために組織された「ヌーベル・パティスリー・デュ・ジャポン」の代表を務める小川さんは、全国の職人の指導的な立場にある。「丹精込 めて作ったお菓子の生地は、余すことなく大切に使うべきだ」と語る。飽食の現代、若い職人が安易に材料や焼き上がった生地の切れ端を捨てているのを見て、 このお菓子を教え、職人のお菓子への愛情や、食材を最後の最後まで使い切る、料理人が言うところの「始末」の心を伝えようとしたのだ。

その味はまるで洋風のきんつばのようだ。しっとりと密度の高い歯応えも、まさにきんつばそっくり。プチプチとしたイチジクの粒々感がアクセントになってい る。洋酒の香りとチョコレートとバターのコクの奥に、かすかな酸味と氷砂糖のようなこっくりしたフルーツ由来の甘味を感じる。

イチジク独特のクセのある青っぽい香り。凝縮された個々の構成要素がひとつずつひもとかれていくのが、口の中で楽しめる。階層的なおいしさと複雑さはワイ ンの味をも思わせる。食後のデザートに赤ワインやブランデーなどと一緒に召し上がっていただきたい、大人も楽しめるスイーツだ。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「イチジクのケーキ」は1個280円

【もうひとこと】
お皿やバスケットに盛りつけて、フルーツのようにしばらくお部屋に飾っておきたいくらいのかわいらしさです。

【住  所】大阪市天王寺区上本町6の1の55
【電  話】06・6773・5582
【営  業】午前8時~午後8時(年中無休)
【最寄り駅】近鉄大阪上本町駅

msn産経ニュース 2012.9.8.09:00
産経関西 スイーツ物語 2012.9.8