【産経新聞社】大阪甘味(スイーツ)図鑑(2012.9.29朝刊)

住吉菓庵 喜久寿の「名物どら焼」

香ばしさ連想させる焼き色

例年、200万人以上の初詣客が集う大阪の“住吉(すみよ)っさん”こと住吉大社。かつてはすぐそばまで海が迫り、「住吉津(すみのえづ)」と呼ばれる港が形づくられていた。

60年前の創業以来、この地で営業を続けてきた「住吉菓庵 喜久寿」は、住吉津の船が出航の合図に使った銅鑼(どら)にちなみ、昭和30年代のはじめに「名物どら焼」を売り出したという。

「当時の和菓子は、最中(もなか)や羊羹(ようかん)などが中心でしたが、住吉っさん詣(まい)りのお土産になるような、ここにしかない看板商品を作りたかったんです」と語るのは、北村泰人専務(52)。

名物どら焼は、住吉界隈(かいわい)の人たちや住吉大社を訪れた参詣客の口コミの力で、知名度を上げていった。最近ではとある大相撲の親方の好物としてメディアに取り上げられてさらに人気を博し、来店客の5割近くが買い求める文字通りの看板商品になっている。

材料は、小麦粉と卵に砂糖、そして小豆など。「あるとき、卵をそれまで使っていたものから別の種類に変えてみたのですが、おいしいと思える生地ができな かったんです」と北村さん。他人の評価の高い素材ではなく、自分が『これだ』と納得できる素材選びにこだわり続け、生地の完成度を高めていった。

高いだけの材料をふんだんに使って高価なお菓子を作っても、大阪でそれが売れるとは限らない。「その商品にそれだけのお金を支払う値打ちがあるかどうか」という価格と品質のバランス。大阪の和菓子の原点がここにあるといえそうだ。

表面は、素焼きの陶器のようにマットな(つやのない)焼き上がり。やや濃いめの焼き色が、皮の香ばしさを連想させる。これを割ると中から、隠し味に使われ ている醤油(しょうゆ)の香りが立ちのぼり、食欲をそそる。断面は霜柱のようなきめ細かな造形になっており、ふっくら、もっちりした食感を出している。

餡(あん)は他の製品とは別に、「どら焼」用に炊く。軟らかく水分量が多いのが特徴だ。朝から炊いた餡は翌日用として1日寝かすことで、深みとまろ味が出 る。焼き上がった生地に挟むと、餡の蜜が少ししみ込み、生地の味わいに変化をつける。栗の甘露煮も重要なアクセント。とろんとした食感のなかに、心地よい 歯応えが楽しめる。

ちなみに栗は、割れ栗を使っている。あとで刻むか、最初から割れたものを使うか。これも値打ちのある選択か…。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「名物どら焼」は1個150円、6個入り1050円、12個入り2千円

【もうひとこと】
関東は「どら焼き」、関西は「三笠」が一般的。「名物どら焼」を販売しているこの店でも使っている餡は「三笠の餡」と呼んでいるそうです。

【住  所】大阪市住吉区東粉浜3の28の12
【電  話】06・6671・4517
【営  業】午前9時~午後7時(不定休)
【最寄り駅】南海本線住吉大社駅、阪堺線住吉駅

msn産経ニュース 2012.9.29.09:00
産経関西 スイーツ物語 2012.9.29