夢操庵「大阪都まんじゅう」
チン、トン、シャンで、まろやかに
チン、トン、シャン…。高く澄んだ金属音が心地よく響く店内で焼き上げられる「大阪都まんじゅう」。リズミカルな音を奏でるのは、まんじゅうの金型 だ。回転しながら次々と焼きあがる光景をガラス越しに見ることができる。大阪・天神橋筋商店街に今年5月末にオープンした和菓子店「夢操庵」オーナーの西 谷操さん(66)は専業主婦だったが、昨年の秋、郷里の四国・松山で旧友からもらった「都まんじゅう」に心が揺れ、「このおいしさをぜひ大阪の皆さんに 知ってほしい」と、自ら店を始める決意をした。
「夫の両親を見送り、時間に余裕ができました。商売をしたことはありませんでしたが、人生のラストチャンスと思い、このまんじゅうを通じて人と触れ合いたいと思ったんです」
8人きょうだいの末娘だった西谷さんは幼少期、父親にかわいがられ、事あるごとに都まんじゅうを土産に買ってもらっていたという。小さい地味なお菓子だが、ほんのりとした温かさと、やさしい甘さに心が安らぎ、家族の会話も弾み、暮らしの中に溶け込んでいたそうだ。
和三盆のまろやかな甘味が生地全体を包み込んでいる。中の白あんもやわらかく炊き上げ、ひと口でいただくと生地となじみ、ちょうどよい口解けになる。「い くつ食べても胸焼けしないように、素材を厳選して余分なものを取り払ったら、子供からお年寄りまで安心して食べられる、体にやさしいお菓子になりました」 と西谷さん。
店を始めると、このタイプのまんじゅうが日本全国津々浦々にあることを客から知らされた。買いに来た人たちが懐かしい郷里の話を口々に語り、会話が弾む。
「黒あんも食べたい」との要望が多いため、「都」(み・や・こ)の語呂合わせで3・8・5のつく日は黒あんになる。天神橋の地にちなみ、天神さんの梅鉢の紋が使えないかと天満宮へお願いに行くと、快諾された。
「不思議なご縁が重なり店を開くことができました」。そう言う西谷さんを支えているのは身近な最愛の家族だ。人間関係が希薄になっている現代、この小さな「都まんじゅう」が大阪の人の手から手に広まり、たくさんの会話と愛情をもたらす懸け橋になってほしい。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「大阪都まんじゅう」は1個50円
【もうひとこと】
あんの入っていない生地だけの「わんこ」も。毎日買いに来る3歳の常連客もいるそうで。
【住 所】大阪市北区天神橋3の8の18
【電 話】06・6356・5800
【営 業】午前11時~午後7時(火曜、第4月曜定休)
【最寄り駅】JR天満駅、地下鉄扇町駅