高砂堂の「名代きんつば」
「不器用に」「器用に」味守る
六面体のきんつばが誕生したのは明治時代。高砂堂の創業者が大阪の老舗菓子店で修業中に仲間数人と開発した。今も丸い形状のきんつばが東京や京都の店で売られているが、この変形である。生産効率を上げ、作りやすくて食べやすい庶民の味を追求し、苦心の末に完成させたのだ。
つぶあんを寒天で固めてようかんのように切り、六面体の一面ずつ生地を付けては銅板で手焼きする。複雑化する和洋菓子の中で、限りなくシンプルな菓子のひ とつだ。4代目社長の渥美裕久さん(52)は「材料も製法も合理化しない不器用さが、長年にわたって皆さまのご愛顧を頂いている理由だと思います」と語 る。
あんは北海道のあずきを水に漬けて選別し、ザラメ糖を加えて鋳鉄の鍋でじっくりと炊き上げる。これを固める寒天は、江戸時代からの名 産地、京都府亀岡市に今も残る寒天商が季節に合う厳選したものを使う。周りの生地に使う小麦粉は、あえて大手メーカーの安定した品質のものを、生地に弾力 をもたせるタンパク質(グルテン)を出し切るまで練り、さらにその先の生地が緩むところまでしっかりと練る。これにより薄くても破れず、のびのあるしなや かな生地ができるのだ。素材から製法、道具に至るまで老舗ならではのこだわりがある。
「あずきの風味をどこまで残すかが、味の決め手で す」と渥美さん。ザラメ糖によってさっぱりとキレの良い甘さに仕上げられ、ほどよい水分を保持して固められたあんには豆の純朴な香りが封じ込められてい る。こうばしい小麦粉の香りもアクセントとなり、もっちりした皮としっとりとしたあんが口中で調理され、最良の状態のお菓子となる。
渥美さんの代になってからは、紫芋、桜、抹茶など、季節のきんつばも積極的に開発している。老舗の味を守り抜き、次世代へとつなぐため、たゆまぬ努力もさることながら、実は器用に時代を生きるDNAが息づいている。
(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「名代きんつば」1個137円 6個入り819円
【もうひとこと】
冷めたきんつばは炊飯器の上に置いておくと、ほんのり温まりおいしく頂けます。
【住 所】大阪市西区西本町1の7の7
【電 話】06・6531・4571
【営 業】前8時~午後7時(平日)、午前9時~午後6時(土曜)、日曜・祝日休業
【最寄り駅】大阪市営地下鉄四つ橋線本町駅