【産経新聞社】関西甘味(スイーツ)図鑑(2013.4.20朝刊)

常盤堂の「御影 雪月花」

手焼きの皮と備中大納言のつぶ餡

「雪月花の時 最も君を憶ふ」。白居易の詩の一節は、日本でも季節のうつろいを情緒豊かに表現する言葉としてしばしば用いられる。

「御影雪月花」は、常盤堂が慶応4(1868)年の創業以来作り続ける定番の最中だ。最中の皮は国内産のもち米を粉にひいて、もちっとした食感になるよう に丁寧に手焼きされる。これにとろりと水分多めに炊き上げられたつぶ餡(あん)をはさむと、皮と餡に一体感が生まれる。「皮ごと食べるつぶ餡には、皮が薄 くて粒よりの備中大納言を使います。糖度が高く不純物が少ないザラ目糖で小豆のうまみを引き出します」とは5代目の岩崎典治さん(57)。

常盤堂は「神戸随一」とうたわれた料亭、常盤花壇の和菓子製造部門から独立し創業。太平洋戦争で本店を焼失し、御影店が本店となった。高級住宅地の御影で、茶席や贈答菓子に欠かせない店として愛され続けている。

「御影雪月花」のデザインは全く変わらない。モダンな雪は日本の雪輪文様を初代が図案化。サイズは終戦後の物資不足の際に少し小さくなったが、製法は同 じ。ただ、餡は時流に沿う形で僅かに調整された。「昔は、保存のため餡の糖度がかなり高めでしたが、冷蔵庫や物流が発達した現代では、ある程度甘さを控え 水分も多めに炊き上げています」と岩崎さん。

まるで最近のもののような和モダン図柄、女性に喜ばれる少し小振りのサイズとアールヌーヴォーを思わせるパステル調の配色、甘さ控えめでしっとりした餡…。何もかもが現代人の嗜好(しこう)にはまる。

「長年のお客さまとのご縁を大切に、期待を裏切らぬ味を伝承させていただきたい」(岩崎さん)と謙虚な心を忘れない言葉の影に、計り知れない努力が垣間見える。

夜露のごとくしっとりとぬれた餡から、小豆のふくよかな香りが口中に広がる。上あごに貼りつきかけていた最中の皮が、湿気を帯びて餡に吸い寄せられ、一体となってゆっくりと舌に染みてくる。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「御影雪月花」1組525円(各1個×3種類 箱入り)、2組1100円(各2個×3種類 箱入り)

【もうひとこと】満月形の和菓子はよく見かけますが、三日月形は珍しいですね。弓の部分はふっくらと形良く見えるように、餡がたっぷり入っています。

【住  所】神戸市東灘区御影中町4の8の22
【電  話】078・851・4677
【営  業】午前9時~午後6時半(繁忙期を除き日曜休み)
【最寄り駅】阪急・阪神御影駅、JR住吉駅

msn産経ニュース 2013.4.20.10:00
産経関西 スイーツ物語 2013.4.20