【産経新聞社】関西甘味(スイーツ)図鑑(2013.6.15朝刊)

天王寺都ホテルの「スイートポテト」

魅力を支える不変のルール

大阪屈指の老舗ホテル「天王寺都ホテル」は、昭和37年にJR天王寺駅上に「大阪都ホテル」として開業し、現在は近鉄百貨店の東隣に移転している。このホテルの名物スイーツ「スイートポテト」は“普遍の魅力”で大阪の名物として今も変わらぬ人気だ。

家庭料理だった「スイートポテト」をホテルのシェフが手がけたのは都ホテルが最初という。「開業10年ぐらいの頃、名物をつくろうと、当時のパティシエらの手により完成したそうです」と現パティシエの西尾章宏さん(43)。サツマイモを丸ごと使用し、皮ごと仕上げる都合上、“量り売り”をしたのだが、それが受けた! 決して安くない価格ながら、天王寺ステーションデパートなどの店舗で行列ができた。

昭和後期から本場ヨーロッパのスイーツが街中にあふれ出すと、次第に「スイートポテト」は居場所を失い、小型化するなど時代に即したスイーツに変わる。しかし昨年、ホテル移転20周年を記念し、“名物”復活プロジェクトが発足。西尾さんは伝統の味再現のミッションを任された。

糖度が高い鹿児島産の鳴門金時を、低温のオーブンでじっくりと焼く。「焼いた皮をそのまま器に使用するのですが、通常の強い火入れでは身が離れて破れやすいため、ゆっくりと長時間加熱しています」と西尾さんは語る。

焼き上がりの熱いうちに皮と身を別にして身の熱をしっかりとって余分な水分を蒸発させる。裏ごしし、卵黄と無塩バターを加えて生地をつくり、冷やし固めて生地をしめる。こうすることで、皮の上にスイートポテト形に生地を成形することができるのだ。そして、成形された生地をオーブンでゆっくりと焼く。

しっとりした食感もつかの間、口中の温度でどんどん生地が表情を変える。滑らかなクリーム状に溶け出した生地から、サツマイモとバターの香りがシンプルにひもとかれていく。最後に残るのは鳴門金時の皮から放たれる焼き芋の香ばしい匂いと、仕上げに塗られた卵黄の風味だ。

「伝統のレシピを変えることはありませんが、常にベストの状態でお客さまに召し上がっていただく努力は怠りません」と西尾さん。時代が変わっても、甘さや食感、そして味そのものを決して変えないのが「都ルール」だ。「あの味に会いたい…」との問い合わせが後を絶たない。これぞ押しも押されもしない天王寺都ホテルの「顔」である。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「スイートポテト」普通サイズ(中央)1個630円、大きいサイズ(左)1個2千円、小さいサイズ1個300円

【もうひとこと】大きなサイズは驚きの600グラム!「昔を懐かしんで」と、お誕生日ケーキ代わりに買い求める方もおられるそうです。

天王寺都ホテル ロビーラウンジ
【住  所】大阪市阿倍野区松崎町1の2の8
【電  話】(電)06・6628・3200
【営  業】午前10時(土日祝は9時半)~午後9時 無休
【最寄り駅】JR天王寺駅、地下鉄天王寺駅など

msn産経ニュース 2013.6.15 00:46
産経関西 スイーツ物語 2013.06.16 01:00